キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「なのに皐月は、全部持ってるから。何か、何か少しでもいいから欠落を見つけたかったから皐月に会いにきてバンドの練習を見たいって言ったのに」
欠落を、見つけようとしていたの。あなたは。
「……そんなもの、どこにもないじゃないか。さっき歌ってくれた曲、自分のこと言われてるみたいだった。皐月の背中を追いかけて、でも届かない。隣に、立てないって」
あなたには歌がそう聞こえていたのか。
自分の状況をそのまま現した歌。だから浅野さんは歌を聞いていて、憎悪の感情を表に出していたのだ。
責め立てられてる気が、したんだろう。
「悔しくて憎かった。皐月が。お前に何でもいいから失って欲しくて、あんなこと言った」
パタリ、フローリングの床に滴り落ちた透明な液体は彼のもの。
パタリ。もう一滴パタリ。
「直人、違う」
「何が」
「あの曲の歌詞は、俺の直人に対する気持ちだったんだよ」
そうだったの?作詞したのは皐月だったの?