キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】


「これ、邪魔なんだよ」


「あっ」


机の端っこの方で宿題をしていたら、お母さんがそれを奪い取って乱暴に床へ投げ捨てた。


小学4年生用漢字ドリルと書かれた本の表紙が折れ曲がる。


「これも、これも邪魔。宿題ならそこでしてな」


鉛筆も消しゴムも、何の価値もないごみのような扱いで床へ放り出された。俺が机で勉強してると邪魔だから床でやれってことなんだ。


「ごめんなさい」


謝って言われた通り散らばってるごみや洗濯物を退かして床にぺたんと座り宿題の続きをする。


床じゃ勉強しにくいけど、我がまま言うともっとお母さんを怒らせるから言わない。


お母さんは冷蔵庫から缶ビールを数本取り出し椅子に座ってテレビのスイッチを入れる。


テレビからは芸能人の明るくてのん気な笑い声が聞こえてくるけど、全く笑えなかった。


お母さんのお酒を飲む量がいつもより多いことが、怖かった。

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