キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「…………!」
はっとした時にはもう遅い、全てがスローモーションに見えた。
手元から滑り落ちるグラスも、零れていく水も。
パシャッ!水は広がりあろうことか傍に放ってあったお母さんの服にまで染みてしまったのだ。どうしよ、これじゃ。
取り敢えず拭かないとと思い立って布巾を取りに行こうとした時『ちょっと!!何やってんのよ?!』鋭いお母さんの声に後ろから刺された。
「あ、これは……」
「こぼしたの?!最っ悪」
お母さんの言葉にテレビを見ていたお父さんまで振り返り、床に転がっているグラスを目で追う。そして眉を吊り上げ険しい表情に。
「お前ふざけんなよカーペット濡れたじゃねえか!あ?」
「ごめんなさ、今拭きます」
「あーあーあー。面倒事増やしやがって。悪い子にはちゃあんとお仕置きしなきゃな?」
ニタリと意地悪くそれでいて不気味に弧を描くお父さんの口角に、ゾクッとした。
お母さんも『しつけ直さないとねぇ』とどこか狂気を孕んだ瞳で俺をじとりと見てきて。あ、嫌だ。ガタガタと震え出す体。