キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
『大丈夫ですよ』だと、何を根拠に言ってるんだってなるし、『大変ですね』は何も知らないくせに同情か、となるだろう。
下手に励ましの言葉を言うよりも、話を逸らした方が良いよね。
「そういえば私、今日差し入れ作ってきたんですよ!皆のところに戻って食べましょう」
「ほんと?嬉しいな」
話の逸らし方、私下手だ。でも藍さんが笑ってくれたからよしとする。2人で皆の待つリハーサルスタジオへ戻った。
「皆さん、今日は差し入れ持ってきました」
「おお、気ぃ利くじゃねえかよ」
「ジャジャン!」
持ってきた袋からタッパーを取り出して、テーブルの上に置く。
練習終わりの今、小腹が空いてちょうどいいはず。
「……タルト、じゃねえよな。何だっけこの食いもん」
「明日歌ちゃん、これキッシュだっけ?」
興味津々でタッパーの中を覗き込む皐月と星渚さんが、疑問を口にする。
「星渚さん正解!キッシュです」
「お、当たった」
「キッシュって、聞いたことあるな。甘くないやつだよね」
藍さんが思い出すように目線を斜め上に向け、記憶の欠片を探る。
「キッシュっていうのは、フランス料理です。パイ生地の中にチーズや卵のソースを流し入れて、お好みで野菜やベーコンも加えた後、オーブンで焼くんですよ」
私の得意料理のうちの1つだ。
説明しつつタッパーをあけてピックを渡す。
「つーか、まじでお前が作ったんかよ?」
「私ですけど」
「買ったやつを『私が手作りしました』っつってんじゃねえだろうな?」
「違いますよ手作りです!失礼の極みだなおいこう見えて料理得意なんですよ」
怪訝な瞳で私とキッシュを交互に見比べている皐月を、一発殴りたくなった。
「……なんか変な調味料とか入れてないよな」
「碧音君もうちょっと私を信用してください」
ちゃんとした材料しか使ってないよ、と碧音君にもピックを渡す。皐月と星渚さんは早速『いただきまーす』と一口サイズに切ったキッシュをパクリ。
「…………お前」
皐月が神妙な面持ちで私をじっと見つめる。え、味変だった?砂糖と塩入れ間違えた?いやそんなはずはないと不安になっていると。
「これまじでお前の手作りなのか疑わしいくらいにはうまい!」
「素直に美味しいって言ってくださいよそこは!」