キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
あ、それ。もしかしたら昨日のことかもしれない。酔っぱらったお父さんに蹴飛ばされ物を投げつけられたから。
お父さんもお母さんも他人にバレないようにと気をつけてはいるけど。
感情を抑えられないのか周りなんかどうでもいいと言わんばかりに激しく暴力を振るってくる時がある。
おばあさんの目がきょろり、俺に向けられる。空気が重くてピリピリしていて、居心地が悪い。
「……それは、勘違いか何かかと」
つっかえつつもお母さんがつらつら嘘を並べる。勘違いじゃないよ、本当にそうなんだよ。
「そう言われてもねぇ」
「子供の泣き声って…、ほら、あれじゃないですか。テレビ番組でたまにそういうシーンがありますよね。その時テレビの音量が大きかったから、聞こえてしまったのかもしれません。今度から音量に気をつけますね」
おばあさんは、分からないのかな。お母さんが、笑っているようで笑ってないことに。
「でもねぇ。物音もするっていうしねぇー」
おばあさんも案外すぐには納得せず、引き下がらない。
おばあさん自身もこれはもしかして……、と疑っているのかも。