キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】


耳を塞ぎたくなる。その台詞の続きは、聞いちゃいけない気がした。


「僕とお母さんとお父さんは」


おばあさんの一言一言が、ずっしりと肩にのしかかってくる。


「とっても、仲良しなのねぇ」


仲良し、っていうのは。俺の家族に1番当てはまらなくて、1番遠くにあるもの。……ああ、そうじゃない。俺の家族、じゃなくて俺が、だ。


お父さんとお母さんは普通に仲がいい。仲良くないのは、俺だ。俺だけが。


「……えっ……と」


言わなきゃ、仲良しですって言わなきゃいけないのに。その単語が喉に引っかかって口から出てこない。


何も言わない俺に、おばあさんが不思議がって首を傾げる。


嘘でも仲良しと言わなきゃいけないのが辛い。だって、違うから。仲良しじゃ、ないから。


気持ちがぐらぐら揺れて、瞳を泳がせていると今まで黙っていたお母さんが『ねぇ』唐突に口を開いた。はっとして顔を上げると、お母さんはすっと口角を上げて。


「皆仲良しだって、そう思うでしょ?――――ユウ」


ゆ、う。お母さんの口がそう動いた。


自分の名前を呼んでもらえても嬉しくない。


お母さんが俺のことをちゃんと名前で呼ぶとき。


それはいつだって周りの人間に俺とお母さんとお父さんは幸せな家族だと虚構を作り上げる時だった。


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