キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
家を出たら、ひたすら走って交番を目指さなきゃ。足を動かして、逃げないと。
決意して、ゆっくり玄関のドアを開ける。一歩、外へ踏み出す。
ガチャ、ドアが閉まる音を聞いて―――一気に駆け出した。
急いで階段を下り、走り続ける。
「はぁっ、はっ」
急げ急げ、自分に言い聞かせて交番へ向かう。
交番に着いたら言うんだ、助けてって。
お父さんとお母さんに暴力を振るわれてるから、逃げてきたって言う。アスファルトを蹴って、数メートル先に見えてきた交番にほんの少しだけ安堵する。
「あとちょっと……!」
ガタガタガタ、ランドセルが背中で跳ねる。あの家から、逃げなきゃ。
逃げろ逃げろ、逃げるんだ。交番の前に立つ警官のおじさんに向かって、声を張り上げる。
「たっ、助けて!」
「……、坊や?」
「……っけて、助けて、助けてください!」
「ちょっ、どうしたんだい?」
青い服をぎゅっと掴んで、助けてと言い続ける。
「怖い、助けて」
「落ち着いて。おじさんに何があったか話してごらん?」