キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「ありがとう。明日歌ちゃん」
「いえいえ」
「……明日歌ちゃんにありがとうって言うの、何回目だろうね」
「て、照れます藍さん!ほら、早く行ってください」
妙に照れ臭くなり、顔を背けながら『急いでくださいね』とぐいぐい背中を押した。
玄関で靴を履き出ていく藍さんを見送った後、そのままリビングには戻らず地下室へ皐月を呼びに行く。
タン、タン、タン。
階段を下りて、練習室の重たいドアを開けた。
「皐月、ご飯できましたよ」
「おー……」
床に胡座をかいて座り、慣れた手つきでベースの手入れに勤しんでいる皐月。
私が喋った内容を聞いてなくて、適当に頷いたことが容易に分かる生返事。分かりやすいよね、皐月は。
何本ものコードや楽器を避けつつ、皐月に近づいた。
「皐月のベース、結構古いんですね」