キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
手入れはちゃんといき届いているけど、所々古い傷や色が掠れている部分がある。
「これな、貰ったやつなんだよ」
壊れ物を扱うかのように優しくベースについた傷を指でなぞる皐月。
「すっげー、大切な人から貰った」
珍しく頬を緩めて笑う。髪の隙間から覗くピアスがキラキラ、皐月に合わせて笑っているように輝く。
「大雑把な皐月がそんなに丁寧に扱うんだから、よっぽどその人のこと好きなんですね」
「大雑把じゃねぇし」
「皐月以外皆同意見ですよ」
私も碧音君もまあまあ雑だけど、皐月はそれ以上だ。
「そうだ!1曲弾いてみてほしいです」
「はあー?」
「ね、いいじゃないですか。サビだけでも」
パチン、両手を顔の前で合わせる。理由は特になく、ただ聞きたくなっただけ。
皐月はぶすっとしていたけど、はあ、と溜め息を吐き『感謝しろや』と言って承諾してくれた。でも何故か皐月が持ったのはベースではなく、ギター。
「それ藍さんのじゃないんですか?」
「ちげえよ。これは俺のだ。一応持って来てあったんだよ」
「ベースで弾かないんですね?」
「ばっか。折角手入れしたのに使うわけねえだろうが」
「あ、そっか」