キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】


手入れはちゃんといき届いているけど、所々古い傷や色が掠れている部分がある。


「これな、貰ったやつなんだよ」


壊れ物を扱うかのように優しくベースについた傷を指でなぞる皐月。


「すっげー、大切な人から貰った」


珍しく頬を緩めて笑う。髪の隙間から覗くピアスがキラキラ、皐月に合わせて笑っているように輝く。


「大雑把な皐月がそんなに丁寧に扱うんだから、よっぽどその人のこと好きなんですね」


「大雑把じゃねぇし」


「皐月以外皆同意見ですよ」


私も碧音君もまあまあ雑だけど、皐月はそれ以上だ。


「そうだ!1曲弾いてみてほしいです」


「はあー?」


「ね、いいじゃないですか。サビだけでも」


パチン、両手を顔の前で合わせる。理由は特になく、ただ聞きたくなっただけ。


皐月はぶすっとしていたけど、はあ、と溜め息を吐き『感謝しろや』と言って承諾してくれた。でも何故か皐月が持ったのはベースではなく、ギター。


「それ藍さんのじゃないんですか?」


「ちげえよ。これは俺のだ。一応持って来てあったんだよ」


「ベースで弾かないんですね?」


「ばっか。折角手入れしたのに使うわけねえだろうが」


「あ、そっか」


< 83 / 579 >

この作品をシェア

pagetop