キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
少しコードと音を確認した皐月。皐月がギターを持ってるとこなんて、初めて見たから凄く新鮮。
「リクエストは?」
「んー……シンドロームのブルーで!」
「相変わらずマニアックな曲好きなのな、お前」
「これは有名な方ですよ」
皐月の隣に腰を下ろし、弾いてくれるのを待つ。自分のために弾いて貰えるって嬉しいし、ありがたいなと思った。
落ち着いたテンポで重みのある、心が安らぐ音を奏でるギター。体でリズムをとっている内に、自然と口を開けていて。
「言葉さえ、なくしても思いでは消えなかった――――君の声が」
……久しぶりに味わう、この感覚。歌以外の雑念は全て取っ払って、心地好い音とリズムに身を任せ、ただただ歌う。
「――ねえ、分かるでしょ。あの綺麗な夏の夜」
「……っ…(こいつ、まじか)」
練習室に皐月のギターと共に自分の歌声が響いているというのも、何だか気分を良くさせる。
「――僕は、あなたを選ぶ」
ジャン、切れの良い音で終わり、終了。ああ、まだ耳に、体に余韻が残っている。
「ありがとうございました、皐月」
「……お前さ」
「はい?」
後ろを振り返り、ギターをケースに仕舞う皐月を見た。
「いや、何でもねえ。さっさと足動かせ」
「分かってますよーだ」
どうしたって言うんだ、一体。疑問に思ったけど、そこまで気にする程でもなかったので、先に階段を上って行ったのだった。