朧咲夜ー番外篇ー【完】
「簡単に言うとな? ……あいつは、味覚障害なんだ。生まれつきの」
「え……味が、わからないの……?」
「そう。甘いも苦いも酸っぱいも、わからん。刺激である辛みも感じないって言ってた。だからあれは、誰かと食事するの嫌いなんだよ」
「そう、なんだ……」
咲桜の視線が、自然と落ちてテーブルの上のお皿に向く。
斎月は、こんなに甘い栗の味も、わからないのか……。
「咲桜が落ち込むことないぞ? 代わりに機械並の性能の瞳と耳をもらったからつって、開き直ってるから」
「そうみたいだけど……」
斎月の瞳と耳の性能が人並み外れているのは、少し逢った中でもわかった。
目は、皮膚を通して体温まで見抜くし、耳は、どんな雑踏の中でも声を聞き分けている。
それが現場に立てば、どれほどだろうか。
「……そういや、主咲に料理を作ってあげられないのは悔しいとかは言っていた、かな……?」