朧咲夜ー番外篇ー【完】
ああそれと、実は、俺は天龍には入れないようになっていたそうだ。
一族から放逐されたとかで、もし『華取在義』を知る人間に見つかったら危ないと言われて、以降、俺が天龍を訪れたことはない。
話が逸れたね。
簡単に言えば、結婚なんかする気はなかったってことだ。
……夜々ちゃんが、ずっといたけどね。
ただ、夜々ちゃんの人生にあらかじめ俺が組み込まれていたのは、嫌だったね。
桃のことは、心の底から愛している。
だからクビ一つ差し出すことに迷いはなかった。
この子がほしいと思ったから。
自分の血ではない娘であろうと、可愛い桃の娘であるというそれだけで、咲桜を生涯愛することが出来る。
……なんかこういうこと言ってると、流夜くんの方が自分の血縁なんじゃないかと思ってしまうよねえ。
妻にバカにならないでどうするとも思うけどね。
「……ごめんな。兄さんの頼み、聞けそうにない」
兄の遺書――俺に残された『華取』はこれだけだ――を封筒にしまって、呟く。