朧咲夜ー外伝ー【完】
私が問いかけると、桃子さんは安心したように口元をゆがめた。
「はい……っ、もちろんです」
「私も、在義兄さんは『夜々』って呼んでくれてるから、そう呼んでもらえたら嬉しいわ」
「夜々、ちゃん……」
このとき、私は桃ちゃんの年齢が不明なことなんて知らなかった。
でも、そう呼ぶのがいい気がして、提案していたのだと思う。
私と桃ちゃんはすぐに友達になれた。
……どうしてかしら、桃ちゃんを恨んだことが、本当に一度もないの。
清々しいほど、私は桃ちゃんが好きになった。
……反対に、在義兄さんに対して、昏い感情が募っていくのを感じながら。
箏子母さんが、在義兄さんの奥さんに、桃ちゃんを認めたことも知っていた。
私に、在義兄さんの結婚に関して言うことはなかったけど。
紹介されたその日、華取の家で、在義兄さんと桃ちゃんと、三人で話すことがあった。
桃ちゃんが身元不明であること、お腹には子どもがいたこと。
在義兄さんは、その子の父親になるのだということ。
隠しておいた方がいいそんなことを、全部話してくれたことが、在義兄さんが私を信頼してくれている証拠だと思った。
話を全部聞いて、私は桃ちゃんの前に膝をついて両手を握った。
「桃ちゃん、元気な赤ちゃんを産んでね。私、逢いたいわ。桃ちゃんと在義兄さんの赤ちゃんに」