朧咲夜ー外伝ー【完】
そう言うと、桃ちゃんは泣きそうな顔で唇を噛みしめて何度も肯いた。
……在義兄さんの結婚の話を聞いてから、私は家に居つかなくなった。
桃ちゃんと逢うのは楽しみだったけど、在義兄さんと逢いたくなかった。
家に居れば、必然、在義兄さんと顔を合わせなくちゃいけない。
だから、在義兄さんが仕事でいない隙に桃ちゃんに逢いに行った。
桃ちゃんは記憶喪失からか不安定なところがあったけど、芯は強くて、知らないこと――憶えていないこと――も、自分から学ぼうとする気概のある子だった。
桃ちゃんの素性が気にならなかったわけではない。
どこぞの行方知れずのお嬢様かと思ったくらいだわ。
母さんは、私の行動を咎めはしなかった。
けど、受け容れているわけでもなく、どう対応したらいいのかわからなかったのでしょう。
家で顔を合わすたびにもの言いたげな顔をしていたけど何も言わなかった。
あ、ちゃんと夜には家にいたわよ? 箏子母さんの評判も、在義兄さんの評判も落とす気はなかったから。
……まあ、そんな日が続いて。
いつものように学校が終わっても家に帰る気になれずに、時間つぶしに公園にいたとき。
いきなり私の前に在義兄さんが現れた。