朧咲夜ー真相ー【完】
在義は足を停めて振り返った。
完全に、『公人としての華取在義』の顔。
――そして、『華取在義個人』の瞳で流夜を見る。
うわあ……一番キケンな時の在義に逢ってしまった……。
流夜、本気で逃げ出したくなった。
このカオと瞳が苦手なのは弟も一緒だった。
「今の君に、私は被害者遺族という立ち位置を強いるしかない。しかし、本来なら許されない場所まで君を導いているのは、君が『私』の娘の婚約者だったからだ」
「……どちらでいるかを、選べと?」
「後者であることを心掛けなさい。……君には少し大変な場所になるだろう」
「………」
『彼女』を、華取桃子としてしか見るな、と。
大変であることは、承知の上だ。
一つの病室。
在義は躊躇なく扉を開けた。
病室に足を踏み入れるのに勇気はいらなかった。
どんな状態で、誰が待っているのか、知ってはいた。
在義に続いて入り、室内を見る。
音が急に消えた気がした。
ピ、ピ、という機械音だけが響いている。
ベッドに横たわる人影。
チューブが何本も繋がれている。