幾久しく、君を想って。
お互いの事情
飲み会のあった居酒屋から駅までは、他の参加者達と一緒に入り混じりながら歩いた。


松永さんからは「下の名前は真梨(まり)さんでしたっけ?」と聞かれ、時々「寒いですね」とか「フラついてませんか?」と声がかかる。


それに対し私は、「そうですよ。松永さんはなんという名前ですか」「冬だから当たり前だけど冷えますね」「大丈夫です。しっかり歩いてます」と答える。


「俺の名前は平和の『和』と、樹木の『樹』を並べて『かずき』と言います」


名前の漢字まで教えてくれることに微笑みながら、若干の好感を持ちだす。



「松永和樹さん……いい名前ですね」


真っ直ぐで柔らかそうな感じだなと思った。


お互いの名前が分かったところで打ち解ける訳ではなく、会話は直ぐに途切れるし、何をどう話したらいいのか、言葉さえも上手く思い浮かばない。


そのうち駅に着いてしまい、電車やバスに乗る人達とも分かれ、二人きりになった。



「こ自宅はこの駅の向こう側なんですよね?」


ご自宅と言われるような邸宅でもないんだけどな…と思いつつ「そうです」と頷く。


ガード下の方面に向かおうとする松永さんは、私の歩調に合わせようとしているらしい。

だけど、足の長さが違う分、少しだけ彼が前を歩くことになってしまう。


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