幾久しく、君を想って。
「お疲れ様でした」


立っている人達に声をかけながら、松永さんはするりと手を離した。
また今度…と言いながら側をすり抜け、二次会には行かない態度を示す。


「宮っち」


初めての参加の時に「独身?」と声をかけてきた人達がいて、今夜は話せなかったねと前を遮られた。


「もう帰るの?二次会に行かない?」


急に誘われて困る。
そんなつもりもないし、第一拓海も起きて待っているかもしれない。


「あの、私は…」


「悪い。先約がある」


松永さんはそう言うと、さっと私の横に回り込んで肩を抱いた。
声をかけてきた人達は目を剥いて、私は直ぐに視線を逸らした。



「えっ…まっちゃんと宮っちって、そういう関係?」


いつから…と聞きだす声にも答えず歩きだす。
後ろからヒュー♫と口笛が聞こえ、それがますます歩調を速めた。



串揚げ屋さんから駅までは少し距離があった。
その間は話もせずに足を進め、店から大分離れた場所で解放される。



「すみません。いきなり肩を抱いて」


離しながら言いだす松永さんの顔も見れず、「いえ」と短く答える。


「皆飲むと強引なるから危ないんで」


いろんな奴がいるから…と囁く。
そうだろうなと思いつつ、ホッとしてもいいのかどうか迷う。



少しの間、靴音だけを響かせて歩いた。

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