幾久しく、君を想って。
彼はそんな私のことをどう思っていたんだろうか。
一時的な愛情を振りまいて、妻の役目を果たし続けて欲しかったのかもしれない。



「……ごめん」


溜め息混じり謝られ、えっ…と顔を見上げた。
眉根を寄せる彼は、固い唇を開いて言った。


「今はまだ帰れない。…でも、必ずここに戻って来るから」


今思えばそれは、程のいい約束。

でも、あの時の私には、天使の囁きのようにも思えた。



「本当に?」


体全体を彼にぶつけるように詰め寄った。
それを抱きとめるかの様に、夫は私の背中を抱いた。



「本当だ。約束する」


目を見て言われたから絶対だ…と決め付けた。
疑う気持ちなんてこれっぽちもない程に嬉しくて堪らなかった。


彼から落とされたキスは何ヶ月も前が最後だった。
だからそれにも喜んで、彼の首筋に手を回した。


彼とのキスは優しさと甘さに満ち溢れていた。
結婚前に戻った様に、長い長いキスを交わした。


キスをしながら彼のことを離したくない…と実感した。


誰よりも愛している…と、心の底からそう思った。



チュッ…と最後の最後で唇を吸われた。
その艶かしい感触が、ずっとその後も私の心を支え続けてきた。



「行くね」


ドアノブを握ったまま振り返る彼を、どうして呼び止めてでも行かせないようにしなかったんだろう。



「うん…」


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