幾久しく、君を想って。
誰なんだろうか…と思いつつも、今は誰も居ないから大丈夫だと安心する拓海の言葉にホッとする。

もしかしたら昨夜走って帰っていた時に、誰かに後を付けられていたのかもしれない。



(変な人じゃないといいけど)


気色が悪いと思いながら林田さんの家へ向かった。
お昼代わりに…と買って行った焼きそばを食べ、彼女の作ってくれた豚汁も頂く。



「美味しい!」


お菓子作りは下手だけど、料理は得意な林田さん。
拓海がお替わりを要求するのを見て「相変わらずのいい子だね」と褒めていた。


その後、片付けをしてブラウニーを作った。
三人の息子さんとご主人に食べさせるんだと張り切る林田さんは、なかなか松永さんのことを聞いてこない。

ブラウニーの生地を混ぜて鉄板に乗せ、オーブンの中に入れるまでは、それに集中しているようだった。



「ところで宮ちゃん、例のイケメンとはどうなの?」


オーブンをセットして後は焼き上がりを待つだけになった頃、やっと話が聞けると喜ぶ林田さん。

私は声を低めて、「別にどうもこうもないです」と返した。


「ええー、ウソー」


疑って掛かる林田さんにまさか昨夜の結末を話せない。


「本当です」


何も進展などないと教えた。


「じゃあこの間言ってた失態って何?」


「あれは、単なる意見交換です」


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