幾久しく、君を想って。
話題になっている映画を観て、お互いの意見が食い違っていただけだと教えた。


「夫の病気を機に、離婚するしないで揉める夫婦の映画だったんです。お互いにバツが付いてるものだから、つい感想にも自分の経験が絡んでしまって」


「…ふぅん、そうなの」


コーヒーを淹れながら林田さんは私の離婚話を思い出したらしい。
夫が愛人の家へ泊まり込むようになって精神的に疲れて別れたと、簡単に説明はしている。



「私はさ、宮ちゃん」


「はい?」


林田さんの淹れてくれたコーヒーの香りを嗅ぎながら目を向けた。


「宮ちゃんはもう一回結婚をしてみたらいいと思うよ」


スティックシュガーの袋を開け、カップの中に注ぐ。
ティースプーンでかき混ぜる彼女の仕草を見ながら「どうしてですか?」と聞いた。


「私はもう懲り懲りな感じもするんだけど」


生涯で好きになるのは一人だけでいいと思ったばかりだ。
いい思い出も嫌な思い出も、全て一人だけのことで終わらせておきたい。


「別れた人とはいろんな事があったと思うよ。懲り懲りだと思う気持ちも分からないではないし。…でもね、宮ちゃんが一人で生きていく姿を想像できないんだ、私。
宮ちゃんはいい奥さんになれる人だと思うから、もう一度誰かの元に嫁いでみればいいと思う。
そしたら今度はいい結婚生活が送れそうじゃない?拓海君もきっと安心出来ると思うけどな」


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