幾久しく、君を想って。
「あの頃はまだそんなイベントが始まったばかりでね。いろんな情報も少なかったし、親子でスポーツをして一緒にお弁当を食べるくらいしかしなかったんだけど、最後にウルッとくるようなことが待っててさ」


「ウルッとくるようなこと?」


何ですか?と聞くと、楽しみが減ったらいけないから教えないと言われた。


「今は情報も多いから、先生もきっといろいろと練ってらっしゃると思うよ」


まぁ楽しんできて…と言われ、「そうですね」と答えた。
親子でホットケーキを焼くんだと話したら「今日の続きで太りそうね」と笑われた。


ブラウニーが焼き上がり、二人でこっそり味見をした。
林田さんは「美味しい!」と感激して、皆が喜んでくれるよと太鼓判を押した。


「宮ちゃんもこれをあのイケメンに贈ってみたら?勢いで迫られたりするかもよ」


冗談にもならない言葉を囁き、それは昨日されたんです…とも言えず家路に着いた。

林田さんとこのお兄ちゃんと遊んだ拓海は、アパートに着く頃には草臥れてしまい、助手席でウトウトと居眠りをしていた。

薄っすらと額にかいている汗を拭き取ってやりながら、こうして寝ていると幼い頃のことを思い出すなと振り返った。




「お母さんの花嫁姿か…」


悪いけど、今後もそれはずっと見せられないと思う。
拓海がどんなに望んでも、自分には人との縁を大切にしていける自信がない。


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