幾久しく、君を想って。
目元が私に似ている拓海は、そう言われることが多かった。


物心つく前から拓海のアルバムには父親の姿がない。
抱いて写ってくれたのも、最初のお宮参りぐらいだった。


何処で歯車が狂ったんだろう。
私がもっと彼を顧みていたなら、拓海の人生も変わっていたのだろうか。


虚しさと共に憤りが生まれた。
クラスメイトの写真が映し出される中、拓海だけは同じように明るく楽しい家庭を知らずに育った様な気がした。


落ち込みながらスライドショーを見終え、カーテンを開けたら明るい雰囲気に包まれた。


涙に暮れていたお母さん達の目元や鼻の頭が赤い。
数人来ていたお父さん達は皆、誇らしそうな顔をしていた。


「今日は日頃の感謝を込めて、親御さん達に向けて生徒にお手紙を書いて貰っています。今からそれを読んでもらい、手渡していきます」


一人一人が読むらしい。
林田さんが言っていたウルッとくることとは、これの事だったのだろうか。


出席番号順に始まり、拓海の番は最後の方だった。
子供達はそれぞれに同じ様な言葉を贈っていた。



『今まで育ててくれてありがとう』

『美味しいご飯を作ってくれてありがとう』

『お父さんとお母さんの子供に生まれて良かった』

『これからもどうぞよろしくお願いします』


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