幾久しく、君を想って。
常套句のような文章を聞きながら、先生に言われるままに書いたんだろうね…と親同士で言い合った。

拓海の番になり、他の子と同じ様な文章だろうと思って耳をすませた。


封筒の中の紙を広げ、コホン!と軽く咳払いをする拓海。
(カッコつけちゃって)…と、少し可笑しくなってしまった。




「お母さんへ」


読み始めた声にピンと背中を伸ばした。
真面目に聞かなくちゃ…と、気持ちを張り詰めた。


「毎日朝早くから夕方まで働いた後、ご飯やお風呂の支度をしてくれてありがとうございます」


その辺は他の子と同じ。
クスッと笑いそうになるのを堪えて続きを聞いた。


「僕は一人っ子で兄弟もいないけど、小さい頃から少しも寂しいと思ったことはありません。
それはお母さんがいつも側にいてくれて、一緒に遊んでくれたり料理を教えてくれたり、勉強を手伝ってくれたからです」


少し思い出したのか、声が詰まりかけた。
そんな拓海を見て、私の方も目頭が潤んだ。


「これから大人になるまでは、まだまだ沢山の面倒をかけると思うけど、いつか僕が家を建てて、お母さんの面倒が見れるようになる日まで元気でいて下さい。お母さんの子供に生まれてきて嬉しかったです。僕を産んでくれてありがとうございました」


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