幾久しく、君を想って。
短い手紙を受け取り、ポロリと涙が頬を伝った。
隣にいたクラスメイトのお母さんが、「優しいお子さんですね」と声をかけてくれた。


その言葉に無言で頷き、また涙が溢れ落ちた。
私の知らないところで、拓海は確実に大きくなっているんだ。

それを改めて思い直させて貰ったーー。


式の最後に先生からお願いがあった。


「今日、お家に帰られたらお子さん達にお便りを書いてあげて下さい。短くてもいいので、十年間を振り返って頂けたら幸いです」


どこの親達も納得し合い、ハーフ成人式は終わった。
拓海のくれた手紙をバッグに直し、二人でアパートの部屋に戻った。


夕食は二人でハンバーグを作った。
拓海が珍しく甘えてきて、よしよしと背中を撫でてやった。



夜になり、拓海が寝静まってから便箋を前にいろんな事を思い出した。

生まれた日からの記憶を辿り、お食い初め、宮参り、七五三……。
節目となるお祝い事を振り返った。


その間に夫との関係が上手くいかなくなって、悲しくて辛くて育児から逃げ出したくなったことを思い出した。

離婚届を出した日に拓海が初めて一人で歩きをしだして、寂しさも一気に吹き飛んだことや、人見知りが強くなって、保育園の先生を困らせたこと。

後追いを先生に止められて泣き叫んでいるのを見た時の辛さ。
早目に迎えに行って、嬉しそうに駆けてきた日のこと……。


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