幾久しく、君を想って。
「えっ?」と目を向けると、悪戯っぽい笑みを返される。


「松永さんには何かあげるの?」


このチョコブラウニーとかどう?と切れ端を持ち上げて見せられる。


「いえ、私は特には何も」


デスクの引き出しに忍ばせているマフィンを思い浮かべて嘘を吐いた。
高本さんはその答えがお気に召さなかったらしく、「そんなのダメよ〜」と言い張る。


「これでいいからラッピングして渡した方がいいって。きっとあの人泣いて喜ぶ筈よ」


「えっ。松永さんって宮野さんが好きなの?」


「いや、そうじゃないけどお似合いでしょ?年齢も同じくらいだし美男美女で」


「あーなるほど、そういうことか」


「うん、それなら何となく分かる」


「いえ、あの、それを分かられても困るんですけど…」


調理員さん達の言葉を止めようとして口を挟んだ。
高本さんはニコニコしながら私を見て、「だからね、これを包んであげなさい」とブラウニーを差し出した。


「いいんです!本当に!」


強めに拒否をして逃げた。
あのままそこに居れば、無理矢理にでもブラウニーを持たされそうな雰囲気だった。


トイレへ行き気持ちを鎮めようとした。

個室の中で気を落ち着かせていたら、事務所の社員さん達の声が聞こえてきた。



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