幾久しく、君を想って。
握っていた手首を持ち上げられ、「はい」と手の中に収められた。
指先を伸ばしたままでしか持てないくらいの大きさで、もう一方の手でも包み込んだ。




「好きです」


驚きと同時に顔を見上げた。
真っ直ぐと向けられた眼差しに胸が鳴り、瞬きもできずに立ち尽くした。


私の顔を見ていた彼は、一瞬はにかんで外へ出た。
その様子を見て直ぐに、ハッと我に返って戸惑った。


このイチゴを受け取ってもいいのか。
自分は拓海と二人で生きていこうと、決め直したばかりなのに……。


焦るような気持ちで考えても纏まらない。

ぼやぼやしていれば、また厨房から高本さん達がやって来る。
事務所の社員さん達までが来たら、返したくても返せなくなる。


複雑な気持ちのままで両手に握った赤い箱を見つめた。

中身のイチゴが大事そうに思えてきて、それに応えたい気持ちが膨らんでいった……。





「松永さん!」


外に出ると名前を呼んだ。
トラックの荷台に乗り込もうとしていた彼が、私の声に振り返った。

その場所に走り寄り、ポケットの中に入れていた物を見せた。



「マフィンです。昨夜作りました。良かったら食べて下さい」


差し出すと手が伸びてくる。

その手の中にラッピングしたマフィンを落とし、ポトン…と乗った瞬間、もう一度だけ夢を見させて…と願った。



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