幾久しく、君を想って。
「『ゲーム好きで相手もしてくれない』ですよ」


「…ぷはっ!…くくく…」


「俺って何気に人の話をよく聞いてるでしょう?」


目線を向けながら戯けた感じで言う人に、「本当にそうですね」と笑った。

一人息子のことを、こんな風に笑って話せたことなんてない。


私の笑い声に合わせて、松永さんも笑う。

男性と笑い合うのも随分と久し振りだと思い、少しだけ気分が華やいだ。



「お幾つなんですか?」


笑いを噛み締めた人が尋ねるから、「拓海?」と聞いた。


「そうです」


真っ直ぐと注がれる目には力があって、やっぱり少しはときめく。


「今、十歳です。小学校四年生」


第一反抗期に入りかけていて、時々無視もされると教えた。


「それならまだ可愛い方ですよ。中学生になれば、口もきかなくなるとよく聞きます」


配達先のお母さん連中の言葉だと言い、住宅街の分かれ道で立ち止まる。


「どっちですか?ご自宅」


気づけば、実家まではもう直ぐの距離に着いていて、右です…と言いながらも何だか早過ぎたな…と思う。



「ねぇ、宮野さん」


右の道に進みだして直ぐに松永さんの声がした。
何だろうか…と目を向けると、彼の目は前を向いていて。



「もう一つ尋ねてもいいですか?」


何となく声が固くなったような気もして、何事だろうか…と見つめる。


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