幾久しく、君を想って。
何も言わずに待っていたら、今度は幾らか躊躇したように聞かれた。



「……ご結婚は、されていますか?」


ドクン…と鈍い心音が聞こえ、同時に目線を下げる。


「あの……」


それは答えないといけないのだろうか。

真実を聞いたからといって、松永さんの得にはならないと思うんだけど。



「これも俺の勘違いなら許して下さい」


そう切り出されると、既にお見通しなんだな…と気づく。



「結婚はしていません。離婚して、シングルマザーなんです」


言い当てられる前に自分から教えていた。
相手は生協の配達人として、週に一度しか会わない男性なのに。



「そうですか」


意外にもあっさりと受け取られてしまう。

ええ…と言いつつも、胸の奥では複雑な心境がする。



(バツイチって言わなければ良かったかな…)


職場でも、それについてはあまり語らないようにしていた。

自分をよく見せたい訳でもなければ、拓海という子供のことを隠すつもりでもないけど。


一つを教えると色々と聞きたがるのが女性。
知らない所で噂されて、尾ひれや背びれが付くのが嫌だった。



黙ったまま歩き、ブーツの靴音が静まり返った住宅街の壁に反響する。


納得した側から何も言わなくなった松永さんのことを意識しながら、前方に見えてきた実家の門扉に気づいた。


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