幾久しく、君を想って。
「んんーっ!」


美味しさを訴えるように、拳をぎゅっと握って振った。

私の興奮ぶりを見た拓海が、まるで面白いものでも見るかのように笑い、二人で久し振りにハイタッチをした。


その後は、歯磨きをしたくないと言い出す拓海を宥めて磨かせ、学校へと見送った。

背中が見えなくなるまで眺めた後、部屋に戻り松永さんにメッセージを打った。


『イチゴ、拓海と二人で食べました!すっごく美味しくて感動でした!』


号泣するスタンプを貼った。
松永さんからは万歳をするクマが返ってきた。


『わざわざ報告ありがとう』


ほやっと笑う顔が思い浮かんで幸せな気持ちに陥った。

危うく出かけるのを忘れそうになり、『また今夜に』と、敬礼するスタンプと一緒に返した。


『了解』


たった二文字が幸せを運んでくる。

まるで子供みたいだな…と自分に呆れながら、軽い足取りで会社へ向かった。




その日の昼休み、久保さんの噂を聞いた。

彼女は松永さんに本命チョコを断られたショックで、今日は仕事を休んでいるらしい。


「こんな事で休むなんて子供ねー」


呆れ口調の高本さんは、ざまーみろと言いたげだ。


「高嶺の花なんかを追うからよ」


「いろんな男に愛想振ったりするから」


辛口評価の調理員さん達の声が恐ろしく聞こえる。
彼と思いが通じたのは自分だとは、口が裂けても話せない。


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