幾久しく、君を想って。
母親の顔じゃない
土曜日の午後、林田さんと待ち合わせの場所へ電車で向かった。

拓海には林田さんとの約束があるから…と伝え、お昼ご飯を食べ終えたら実家で待っていて欲しい…と願った。



「お母さんは最近、出かけてばっかだね」


少しむくれる表情を見せた拓海は珍しく嫌味を言った。
自分が除け者にされた様な気がしたのか、プイと背中を向けられてしまった。

後ろめたい気分の私は、一瞬「一緒に行く?」と言いだしそうになった。
それを抑え、「お土産を買ってくるから…」と言って誤魔化した。


林田さんと待ち合わせたのは、松永さんと一緒に映画を観た複合施設の中だ。
人通りの少ない隣ビルへの連絡通路の脇で、二時に待ち合わせようと言われた。


そこに松永さんも来て合流することになっているが、彼を林田さんに紹介したら、彼女はどんな印象を受けるだろうか。

予想をするのも躊躇われ、自分が初対面で会う訳でもないのに緊張した。

待ち合わせの場所に着いたのも自分が一番最初で、二人ともまだ来ていないから余計に落ち着かない。


通路をウロウロと往復して待った。
デートではないけど、彼に会うから…と思い、スカートを穿いた。


通路には空調が効いておらず、足元から冷たい風が通り抜けてくる。

少し肌寒くて温まる場所に居ようと思い直し、ガラスの方へ近づいた。


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