幾久しく、君を想って。
「じゃあ和食がいいな。肉じゃがとか酢の物とか」


「さり気なく料理の腕前確かめようとしてない?」


「してないですよ」


言い掛かりだと笑い、肉じゃがならカレー味にしてもいいかと尋ねた。


「拓海がカレーが好きなんですけど…」


「宮ちゃん、それマナー違反じゃないの?」


「えっ…」


「だって、彼氏に振る舞う料理よ?拓海君の好みはまた別にすれば?」


「あ…そうか」


つい今までの癖で拓海の好みを混ぜようとした。
何処までも母親が抜け切らなくて、ごめんなさい…と謝った。


「俺は何味でもいいから拓海君に合わせてあげよう」


「優しいわね〜!宮ちゃんには勿体無いくらいかも!」


囃し立てられ、居ても立っても居られず席を離れた。

三人で食材を買いに一階へ降り、ついでに…と二、三日分も纏めて買った。


重いレジ袋は松永さんが持つと言ってくれた。

すみません…と手渡そうとしたら、彼の視線が逃げて行く。

私の後ろにいる誰かを追うように見ているのに気がつき、誰だろうか…と振り返った。




「…どうしたの?宮ちゃん」


自分の分を袋に入れていた林田さんが尋ねた。

その声に振り向き、「いえ、何でもないの」と答えた。

彼に目線を移してみると、既にこちらに向き直っている。


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