幾久しく、君を想って。
誰に気づいたのだろうか…と思ったけれど、敢えて聞かずにレジ袋を手渡した。


駐車場へ向かいながら、緊張感が高まる。

拓海は松永さんに会って、彼を気に入ってくれるだろうか。
林田さんのように私のことを見て、「お母さんの顔をしていない」と思うのだろうか。


不安を膨らませながら林田さんの車に乗り込んで、わざわざ電車で来るように言われた訳はこの為だったのか…と思い付いた。


彼と私は、後部座席に座って欲しい…と頼まれた。
手荷物は全部助手席の上に置かれ、わざと隣には座らせないようにした。



「それじゃ行くね」


自宅のアパートへ向けて走り出す車内で、松永さんはそっ…と指先に触れる。

ビクッとする私の反応を確かめるように、時々動かしては弄ぶ。


林田さんはそれに気づいてもいない様子で話しかけてきて、私はそれに必死で答えながら、ずっと冷や汗をかき続けた……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


自宅アパートに着き、実家へ拓海を迎えに行った。
玄関先で出て来るのを待っていたら、母が「晩ご飯を一緒に食べて行かない?」と誘ってきた。


「今夜は駄目なの。林田さんがわざわざ来てくれたから」


ギクリとしながらそう断ると、「林田さん?」と聞き返してくる。

不思議そうに首を傾げ、「ああ、前の職場で仲が良かった人ね」と思い出した。

< 188 / 258 >

この作品をシェア

pagetop