幾久しく、君を想って。
「じゃあその人も一緒にどう?」


提案にギクリとして、「今夜は材料を買ってきたからいいの。また誘って」と断った。

奥の部屋でゲームをしている拓海を急がせ、「それじゃまた」と先に玄関を飛び出す。

あまり焦っては不自然だと思うけれど、母にあれこれと確かめられるのが恐ろしい。
まだ付き合っているとも言い難い松永さんの存在を、早々と知られてしまうのが嫌だった。


ドアの外で待っていたら、拓海がやっと出てきた。
全く…と言いたくなる気持ちを堪え、二人で実家の門扉を曲がった時ーー



「お母さん…」


不安そうな声を出し、拓海が私の後ろへと隠れた。
何があったのだろうかと振り返ると、「あいつだよ」と声を潜めて言いだす。


「あいつ?」


何のことだと思いながら拓海の視線を辿って向き直ると、林田さんの車の側にいるのは松永さんだけで、他に変わりはない様子。


「何が『あいつ』なの?」


私の後ろから顔を覗かせている拓海は「やっぱりそうだ」と呟く。
首を傾げる私の顔を見上げ、表情を固くしたままで囁いた。


「この間、アパートの前に居た不審者だよ」


「不審者?」


拓海の言葉にあ…と思いついた。
先週の土曜日の朝、見かけない人がアパートの前にいたと言っていた。


「もしかして、この間言っていた人のこと?」


顔を見たまま確かめると、「うん!」と力の籠った返事。
< 189 / 258 >

この作品をシェア

pagetop