幾久しく、君を想って。
本来なら上がって下さい…と言えばいいんだろうけど、生憎今夜は時間も遅い。


「いいですよ。前から色々と話してみたいなと思ってた人と話せたから」


口角をカーブさせて、ニッと笑う人を見直した。


「前から宮野さんのことが知りたくて仕方なかったから、今夜はいい機会でした」


高もっさんに奢りたい気分ですよ…と言い、見つめている私の顔を見返す。


こんな風に見つめられたのはいつぶりだろうか。

あの時のあの人は、どんな顔をしていたっけ……。




「おやすみなさい」


開いた唇から声が漏れ、ハッとしながら項垂れる。



「…お、おやすみなさい」


ドギマギとする胸の音が聞こえだしそうで慌てる。
その雰囲気に気づかず、さっと背中を向けられていた。



「じゃあ、また」


その「また」は配達日にという意味だろうか。

それとも「また『アラフォー部会』で会おう」の意味?



「気をつけて」


走り出した人を見送る。

薄暗い中に足音だけが響きだす。



(…何れにしてもいいか…)



今夜は彼に少しだけときめきを貰ったんだ。


ほぼ十年近くぶりに横を歩いてくれた。


柔らかい微笑みに、久し振りに胸が鳴った……。




「いい人だったな。松永さん…」


そう声に出して、うん…と自分が答える。


走り去って行く人の背中を見越しながら、また話してみたい雰囲気の人だな……と感じた。



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