幾久しく、君を想って。
「あいつに間違いないよ」


睨み付ける拓海をぽかんと見てしまった。
アパートの前に松永さんが居たことも不思議だったけれど、それを見て不審者だと決めつけているのもおかしい。


「あのね、拓海」


それは誤解だと教えようとしたら、車の陰から出てきた林田さんが、大きな声で拓海を呼んだ。


「拓海くーん!」


右腕を伸ばして手を振ってくれている。
拓海は目を見開き、あっ…と口を開いた。


「何か勘違いをしているみたいだけど、あの人は林田さんの知り合いよ」


やはり協力を頼んでおいて正解だった。
それをしないでいきなり彼を紹介したら、きっと拓海の中の不信感は消せなかっただろうと思う。


「あのね、この間のハート型のイチゴをくれたのもあの人なの」


いつもお世話になっている生協のお兄さんよ…と伝えると、疑わしそうな目を向ける。


「拓海と遊びたいと言ってくれて、それで今日お招きしたんだけど」


何処までが嘘で本当か、自分でも段々分からなくなってくる。
とにかく拓海にとって、彼が危害を加えるような相手ではないことを伝えておきたい。



「行きましょう。紹介してあげるから」


歩きだす私に付いて来るだろうかと不安に思いながら振り返ると、拓海は仕方無さそうにのろのろと歩み出そうとしている。


< 190 / 258 >

この作品をシェア

pagetop