幾久しく、君を想って。
「最近、誰かとお付き合いしているの?」


ギクッとしたのを顔に出さないようにするので必死だった。

「えっ…」と声を漏らすと、母は唇の端をキュッと締めた。



「さっき一緒に歩いていたのは誰?」


「さっき?」


母の顔を見つめ、もしかしたらアパートに入る前のことを見ていたのだろうかと思った。



「あの背の高い人のこと?」


狼狽えそうになるのを必死で誤魔化しながら、目線を何とか母に向けた。

母は私の中の揺るぎを探ろうとしているのか、鋭い視線で見返す。


「そうよ。仲良さそうに歩いてたわね」


仲良さそうに見えたのは母の直感だろうと思う。
拓海の勘の良さは、母に似ているんだ。


「あの人は…林田さんの知り合いで…」


母に嘘を吐くのは忍びない気持ちがしたが、すんなりと正直に話すのが怖くてつい拓海と同じ手を使った。


「松永さんというの」


名前を言っても母の視線の鋭さは変わらない。
まるで全てを見通しているかの様な雰囲気で、私は背中に冷や汗をかいた。


「会社に毎週配達に来る生協の人で、今日は拓海と一緒に遊びたいと言ってくれて…」


晩ご飯が出来るまでの間、拓海の相手をしてくれた。

最初は余所余所しくしていた拓海も子供の相手が上手い彼と、次第に笑いながら会話をしていた。


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