幾久しく、君を想って。
「……っ」


「真梨が誰と付き合ってもいいと思うのよ。ただ、拓海ちゃんを蔑ろにするのだけは駄目よ」



ビクッとして母を見た。

あの夜、拓海を部屋に残したままで外へ出て行ったことを気づいているのだろうか。


「子供は人生最大の財産だからね」


呟いた言葉に、じっとしたまま目を向けた。
母の視線はじっくりと私を眺め、「親はそれを忘れてはいけないわよね」と続ける。


私に言っているのだろうかと思ったけれど違う。
その言葉は、あの人のことを指しているんだ。


「どんなことがあっても親であることを忘れてはいけないし、生まれてきた命を蔑ろにしてはいけない。
例え言葉を話さなくても大事な財産だと思って、守り育てていかないと」


母の話を聞きながら、結納品を焼いていた時に零した言葉を思い出した。



『……幾久しくって、言ったくせにね…』


あの時の母の脳裏には何が浮かんでいたのか。


結納という晴れやかな日のことなのか。
拓海が生まれて、皆が喜んでいた日のことなのか。


何れにしても夫婦とは違い、親子の関係は別れても永遠のものだ。
どちらか片方が先に死んでしまっても、末長く親であり、子供であることに変わりはないーー。


それを思いながら、これまでのことを振り返った。
私はずっと拓海を守り育て、自分なりに愛してきたつもりだった。


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