幾久しく、君を想って。
「…もしも、真梨に好きな人がいるんだとして…」


話の続きにビクリとして目を見開いた。

それに気づいたような母は、敢えて何も聞かずに自分の言いたいことだけを言った。


「拓海ちゃんに内緒で付き合ったりしない方がいいと思うわ。あの子にはこれまで大人の男性との触れ合いが極端に少ないし、それに慣れていくには年齢的にも難しい年頃に差し掛かっている。
いろいろな葛藤が生まれるだろうし、下手をすれば、真梨に対する信用すらも無くすことになるかもしれないわね」


「拓海からの信用を無くす?」


その言葉に大きな衝撃を覚えた。
愕然とする私に目を向け、母は真顔で「それもあるかもしれないと言うだけ」と付け足した。


「あの子にとって家族は真梨一人だったのよ。それなのに、いきなり他の誰かを認めたりなんてできないでしょう?」


母の言葉に愕然としながらも、納得するしかなかった。
現実を新たに教えられたようで、何も言えなくなってしまった。


「それを覚悟の上でないと駄目よ。でないと今度は、拓海ちゃんも失うわ」


最後の言葉にゾッとした。
拓海だけを見つめて生きてきたこの十年近くが、全て消えて無くなるような気がした。


狼狽えだす私を目に入れ、母は少し笑った。
その理由は言わず、「それだけよ」と言って立ち上がった。




「…今度」


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