幾久しく、君を想って。
「子供のいない夫婦にとっては、相手が人生最大の財産だということになるのかな」


思い付きのように言いだし、「実はね」と付け足す。


「今日の昼間に、別れた妻を見かけて…」


「えっ!」


「背中だけだったけど、多分間違いないと思う。相変わらず肩で風を切るような歩き方をしていて、何も変わってなかった」


松永さんの言葉に愕然となりながらも、「まさか…」と思い出したことがある。


もしかして、あの食品売場で彼の目が追っていた人ーー?


「ん?」


「いえ、何でもないの。それで?」


「それだけだよ。別れた妻も財産だったとしたら、その人を見かけたってだけ」


ちょっと驚いたんだと話し、内緒にしておくのも変だと思ったから教えたと言われた。



「松永さん…」


本当にそう思っただけ?
別れた今も、彼女のことを大事な財産だと思っているんじゃないの?


思いを口に出せず、黙り込んだ。
彼に拓海のことを頼みたかったけれど、それを言い出すのも憚られる。


彼は私とは違う。
元鞘に収まろうと思えば、自由にそれが出来る人だ。



「それよりも俺、聞きたいことがあるんだけど」


真面目な声を出し、松永さんが一呼吸ついた。
私は考えを逸らされみたいで、ホッとしながら耳をすませた。




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