幾久しく、君を想って。
お母さんの好きな人
週の明けた火曜日、いつもの様に松永さんは仕事場へ配達に来た。

「こんにちはー!」と大きな声で挨拶をし、彼を迎える私に微笑みかける。

ほぼ毎晩文字で会話をするけれど、やっぱり顔を見られるのは嬉しい。



「今日は大分あったかいですね」


皆を呼ぶ前に言葉を少し交わす。
私がこの会社へ就職してからずっと、毎週変わらず続けてきたことだ。



「本当に春めいてきました」


背中越しに見る外の景色も冬とは違う。
ふわりと舞い込んでくる風も、今日は何処か暖かい。



「皆を呼んできます」


手短に話を済ませて逃げようとすると、彼が「真梨さん」と呼びかけた。

ドキッとして振り返ると、思いがけない言葉を言われた。


「来月の『アラフォー部会』に拓海君を連れて来きませんか?」


「えっ」


彼の顔を見て、どうして?と聞きたくなった。
ゆっくり話している間もなく、「理由は夜にでも」と持ち越された。


班の全員で今週注文した分のハッポースチロール箱を下ろし、先週分の箱を返す。

久保さんは失恋のショックから立ち直ったらしく、これまでと同じように松永さんと会話をしている。


若い彼女を見ていると、本当はこの姿が当たり前ではないかと思う。

コブ付きのバツイチの私よりも、若くてバツのない久保さんの方が彼には似合う。


(でも…)


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