幾久しく、君を想って。
黙り込んだまま何かを懸命に考えようとしている。
判決を待つような心境で、彼も私も拓海のことを見つめていた……。





「………嫌いじゃないよ」


悩んだ挙句、そういう答えを出した。
期待した通りの言葉ではないけれど、それが今の本音だと思う。



「…そう」


申し訳ない気持ちと残念な思いを込めながら声を発し、切なそうな目でこっちを見守る松永さんを見返した。




「お母さんは?」


声にハッとして、思わず拓海の顔を窺った。
自分によく似ている目元で、じっと見つめられている。



「お母さんは、おじさんが好き?」


真剣な表情で問われ、ちらっと彼のことを視界に入れる。

松永さんは困った様な笑みを浮かべ、全てを任せるように視線を流した。



「…ねぇ、どう?」


イラッとしたのか、手を握ったまま揺すりだす。
まるで駄々っ子のようだと眺め、「あのね…」と声を出した。




「……お母さんは……好きよ…」



「好きよ」に想いを込めて呟く。

拓海は一瞬息を呑み、それから彼と私に視線を走らせた。



「…だって、いい人だもん…」


子供に分かり易い言葉で理由を話し、彼の方に目を向ける。
二人で見つめ合った後で笑い合うと、拓海が松永さんに向かって聞いた。



「おじさんはお母さんが好き?」


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