幾久しく、君を想って。
「会社関係の集まりに二人で?…そうですか、それはどうもすみません。こちらこそ、いつも娘が厄介になっています」


寝耳に水な父は怪訝そうに眉根を寄せる。
それでもこの場では追及もせず、彼に合わせるように会釈を返した。


伏せられた目線が上がり、「入りなさい」と門の扉を開けられる。
違う意味で彼を紹介したい私は、すぐにそれに応じられずに立ち竦んだ。



「…真梨?」


父の声にビクついて、黙っていてはいけないと気を引き締め直した。
眼差しを父に向け、その横にいる拓海も視界に入れた。


「お父さん、あのね」


口火を開いたその時、玄関の方から母の声が聞こえた。



「お父さんー、誰だったのー?」


父は後ろを振り返り、「真梨と拓海だ!」と声を張り上げる。

そのまま私の方に向き直り、「とにかく入りなさい」ともう一度言った。




「……貴方もどうぞ」


松永さんにも目を向け、拓海に「行こう」と呟き、踵を返す。

拓海は大人達の微妙な雰囲気を感じ取ったのか、無邪気そうに振舞って食べた料理の話をし始めた。


「パエリアの中にムール貝とエビが入っててね……」


父はその話に耳を傾けながら聞いている。

その背中を見越した先にいる母は、とにかく入っておいでとばかりに首を縦に動かした。



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