幾久しく、君を想って。
「しっかりと拭くのよ!」


「は〜い」


返事だけは調子がいい拓海。

その後はさっさと歯磨きまで済ませて脱衣所を出て行った。


呆れながら一人だけの入浴を済ませて髪を乾かす。

二十代の頃に着ていたホームウエアに袖を通し、流石に恥ずかしいな…と思いつつ脱衣所を後にした。




「真梨」


廊下を歩いてリビングへ向かっていると、母が和室から声をかけてくる。


「拓海ちゃんなら二階で寝かせたから」


「えっ……拓海寝ちゃったの?」


それじゃあ連れて帰らないと…と言うと、「今夜はここに泊めればいいじゃない」と言いだす。


「でも…」


「いいから今夜は預かるわ。それよりも松永さんと二人で話すことがあるんじゃない?」


自分達の話は済んだから、一緒にアパートへ行って話せば?と言ってくる。


「え……」


「そういう仲なんでしょう?」


フッと笑い、「さっき彼が、『いつもお世話になっている』と言ったわよ」と囁いた。


「それは…」


違う意味だと言おうとしたけれど、母は全く聞く耳を持つ気はないらしい。


「拓海ちゃんも彼に懐いているみたいだし、きちんと大人同士の話をした方がいいわね」


せっかちそうに言い渡し、いい人そうには見えるけど……と、意味深そうな言葉を吐いた。


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