幾久しく、君を想って。
「お待たせしました」


熱いので気をつけて…と差し出した後、ようやく着ているコートを脱げば。


「可愛いね。それ」


くすっと笑い声が聞こえ、胸元にプリントされたキャラクターに視線が注がれる。



「こ、これは若い頃に好きだったから…」


慌てて脱いだコートで前を隠し背中を向ける。


やっぱりらしくないと思われたか。
どうしてこんな服しか実家には置いてなかったのだろう。



「ちょっと待ってて下さい」


自分の部屋へ向かい、今朝脱いだカーディガンを羽織り直す。
上からボタンを数個留め、キャラが見えなくなるとホッとした。


はぁ…と息を吐いて振り返れば、松永さんは私の部屋の前に立っている。
後を追って来たんだ…と分かり、ドキンと余計な心臓の音が聞こえた。


「ここが君の部屋?」


中の様子をしげしげと見回している。
ベッドとタンスと机以外は、可愛らしいものも何も置いてない無機質な感じのする部屋だ。


「色気も何もないでしょう」


自ら肯定してしまうと、松永さんはうん…とも言わず、中へ入って来ようとする。



「和樹さん、あっちで…」


この部屋は寒いからと言うのに、「ここでいいよ」と返事が戻る。

ベッドがあるから落ち着かないとは言えず、「それじゃお茶を運んでくる」と言えば、それもまた「いい」と止められた。


< 236 / 258 >

この作品をシェア

pagetop