幾久しく、君を想って。
「さっき実家でお茶を頂いたからいいよ」


そう言われてしまうと何も言い返せない。
仕方なく電気ストーブのスイッチだけを入れ、何処に座らせようかと見回した。



「流石に栄養士さんだ。料理に関する本がいっぱい」


机の上に並べている本や雑誌を見て感心される。
仕事で献立を考える時の参考にしているんだと教えれば、給食の献立表まで?とファイルを抜き取られた。


「人の献立も参考にするの。拓海にどれが美味しかったかも聞けるし」


ここで子供の名前を出したのはまずかったかもしれない。
松永さんは開きかけた献立表のファイルを閉じ、「ふぅん」と唸ってから棚に戻した。


「さっき…実家で何を話してたの?」


少し様子が変だと思い、顔色を窺う。
うん…と頷く声を出した彼は、ベッドの側に来て腰を下ろした。


「真梨さんのご両親から『親バカな思い』を聞かされてた」


「えっ?」


「あ……いや、『親バカ』と言ったのはお父さん本人で、俺としては凄く当然だと思える内容だったよ」


そう言うと真面目な顔つきになり、その話した内容を頭の中で反芻している様にも見える。


「父の話した思いって何?」


私や拓海に関する事だとは思うけれど想像がつかない。
聞かれた彼は私に目を向け、切なそうな表情をして微笑んだ。


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