幾久しく、君を想って。
間近に見える彼の顔が切なそうに歪み、「真梨さん…」とか細い声で呼ばれた。


「はっきり言って悪いけど、俺は拓海君に嫉妬をすると思うよ。さっきお風呂の話を聞いただけでも、正直少しイラついてたから」


子供みたいだろう…と囁き、俺はそういう人間なんだ…と呟く。

裏のあるように見えたのは、彼があの場で精一杯自分の気持ちを押し隠そうとしていた所為なのか。


「勿論、嫉妬したのは拓海君本人に対してではない。彼の中に流れる他の男の血に対してだ。
これからも事ある毎にそういう感情を持つと思うし、時には可愛いと思うことも出来なくなるかもしれない。
煩く感じたり、拒否をしてしまうことだってあるだろうと思う。
そうなると今度は君が苦しくなって、俺と拓海君の間に挟まれて悩みを増やすだけになるんじゃないかと危惧する」


そうなりたくない…と囁く人の目を見ながら、胸が痛くて仕方なかった。

拓海がいることで、この人がこんなにも思い悩んでしまうとは思わなかったーー。



「……でも」


生まれてきた命を蔑ろにすることは出来ない。
今日まで私が歩いてこれたのも、拓海が側に居てくれたからだ。


「分かってる。君がどれほど拓海君を愛し、育ててきたかは知っている」


机やタンスの上に飾ったフォトフレームを見つめ、「あれが君達の軌跡だよね」と呟いた。


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