幾久しく、君を想って。
そんな危惧を思うくらいなら、何も始まらないうちにただの知り合いに戻った方が楽だ。

湧き上がった恋心は忘れて、今まで通り拓海と二人だけの生活に戻った方がいい。


そう思う気持ちがあっても言い出せない。

自分から別れを切り出すのは、一度きりで十分だと思っているからーー。




「まだ始まってもないけどエンドにする?」


彼の言葉にギクッと体を揺らす。
目線を向けると、彼の唇が噛み締められた。


いつもほやっと人のいい笑顔を見せる彼の顔が固まっている。
怖いくらい真剣で、どうしたいのかを聞きたそうに待っている。


彼を望めば何かが変わるのだろうか?
彼自身の危惧も無くなり、私自身の勘繰りも無くなってしまうのだろうか。







(……ううん。きっと無くならない……)


迷った挙げ句、そう答えを出すと涙が溢れた。
未来に待っているのは、きっと幸せだけではない筈だ……。



「真梨さん」


彼の手が伸びてきて、頬に伝った雫を掬う。
その手の温かさを感じ、何よりも大切なものを優先させようと決めた。



「……終わるのは嫌です……だから、拓海の次でもいいですか?」


声を詰まらせて聞くと、彼はえっ…と聞き返す。
口にしてしまったものは取り消せない。
自分にとって大切なものは、やはり今はまだ拓海だ。


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