幾久しく、君を想って。
「拓海の次に和樹さんを好きでいていいですか?二番目では駄目でしょうか?」


十年近く、私を支え続けてくれたのは子供だ。
その時間は私の中で貴重な財産になっている。


松永さんは声も出せない様子で、私を見据え続けていた。
ぐずつく鼻水の音だけが響いて、部屋の中はシ…ンと静まり返った。



都合のいい願いに、彼は明らかに戸惑っている。

何処の世界に好きな男性よりも子供を優先しようする女がいるだろうか。

一人の女性でいることよりも、母親でいることを認めて欲しいと願うなんてーー。


我ながらなんて馬鹿なことを聞いてしまったのだろう。
これが別れた夫なら、直ぐにサヨナラを突き付けられてしまう所だ。


彼はじっと私の目を見つめ、徐ろに視線を横に滑らせた。
やっぱり馬鹿なことを聞いたと思い、お別れした方がいいんだ…と思い始めた。






「二番目は嫌だ」


低めの声で囁かれ、松永さんのことを見た。
膝の上で両手を組んでいた彼は、その握り合わせていた拳に力を込める。


「俺は君が知っている以上に嫉妬深い男なんだよ。だから、子供の次に好かれても嬉しくない!」


怒ったように訴える。
当たり前過ぎるその言葉に、ぎゅっと手を握った。



「……ごめんなさい……」


言う言葉が他に見つからず謝った。
彼が言うことが最もだ。
私が言っているのは、単なる我が儘に過ぎない。


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