幾久しく、君を想って。
家内は堪らずあの子を抱きしめて慰めましたが、私は逆に腹が立ってなりませんでした。

どうして最も早く助けを求めに来なかったのかと、真梨を怒鳴りつけたくなりました……」


隣で話を聞いていた母親は、その日を思い出したかのように涙ぐんだ。

その姿が彼女と重なり、ぐっと胸が熱くなった。


「何故こんなふうに真梨が蔑ろにされなければならないのかと思い、相手の男が憎くて堪らなかった。

拓海がいなければ、裁判でも何でも起こして責任を追求してやりたい気分でした。

何処に居るのか探し当てて殴り付けてやりたい。
相手の親までも恨んで、写真も結納品も全て焼き捨ててしまいました」


ぎゅっと掌を拳にしている。
歯痒くて堪らない様子に、殺気じみたものを感じた。


「あんな思いは二度とさせたくないし、したくない。
親バカだと思われるかもしれませんが、それが正直な心情なのです。

金輪際、泣く姿を見たくない。傷付かずに済むのなら一生涯独身でいても構わないと思っています。

孫と二人だけなら、自分達でもまだ面倒を見てやれる。そのくらいの蓄えなら持っています……」


そう言う父親の言葉は胸に刺さった。
思いの深さが俺とはまるで違う。


「貴方が真梨を好いて、共に人生を歩もうと思うのなら感謝致します。拓海の為にも、父親がいた方がきっといいだろうと思います。……でもね、松永さん」


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