幾久しく、君を想って。
振り返って尋ねると、真面目そうな雰囲気の人がこくっと顎を下げて頷く。



「……い、いいですよ…」


努めて平静を装いながら返事をして、厨房に向かって進む。

胸の音がざわざわするくらいに大きく聞こえ、ドアノブを握る手も震えそうだ。



「コープさん来ましたー」


換気扇の回る厨房内に聞こえるよう、わざと大きな声で教える。
その後で栄養事務室に戻り、内線でオフィスの事務所へも連絡する。


いつも行っている手順の隙をついてくるとは思わなかった。

話とは言っても、高本さんが言っていたような内容とは限らないのにドキドキしている。


自分には恋愛する意思もないのに愚かだ。
昨日聞いた話に惑わされ過ぎもいいところだ。


班の皆が集まりだしたところで、荷台から下ろされるハッポースチロール箱を受け取り、代わりに先週下ろした箱を返す。


「今日は欠品注文はありませんでした。次回の発注分はこれだけでいいですか?他にもあれば今のうちに受け付けますけど」


松永さんは人のいい笑顔を見せて対応している。
いつもと変わりなく班の人達に話しかけ、楽しそうに見える。


「今度、バレンタインデーの特集があるのね」


来週注文分のカタログを見ながら事務所の社員が呟いた。


「そうなんですよ。美味しいと評判のメーカーさんも協力してくれているので、是非注文してみて下さい」


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